2010年04月12日

物語。


アイの物語 (角川文庫)

アイの物語 (角川文庫)

  • 作者: 山本 弘
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2009/03/25
  • メディア: 文庫




 ようやく、読んだ。

 もう、すごすぎてどう表現したらいいのかわからん。
 これを Blog エントリにまとめるのは1つの挑戦だ。

 えー、うん、3つの観点でいってみよう。


 1つ目は物語そのもの。

 構成としては物語の中で複数の物語が語られる、千夜一夜物語形式。
 千夜一夜物語ではシェラザードは自分が生きながらえるために支配者たる王に物語を語ったけれど、人類がマシンに蹂躙された未来の世界を扱ったアイの物語では、人類を救うためにマシンが少年に物語を語る。

 個別の物語は(作者の過去の短編をそのまま流用していることもあり)非常に読みやすく、それぞれテーマもしっかり伝わってきます。

 でも本書は個別作品の寄せ集めではなく、マシンがある意図をもって選んだ物語たち。
 それぞれが完結した話が折り重なるうちに、各々が完結したままでは感じなかった何かを感じるようになってきます。
 物語を聞くうちに、私も主人公と一緒にどこに足場をおいて立ったらいいのかわからなくなってしまいました。
 この、物語を用いて物語が進む立体感。グラグラと立ち位置を揺さぶられ、そのせいで逆に必死に考えて自分を安定させようとする感覚。

 その過程がまさに本書のテーマである「物語のチカラ」を物語っています。
 マシンが少年に何をしようとしているのか、なぜその手段に事実を伝えることではなく、物語を語ることを選んだのか…。
 「真実より正しい」ものがそこにはありました。


 2つ目は SF という手法の力学。

 SF というジャンルはストーリーや設定の特徴で定義づけられているけれど、物語を描く手法としてのポイントは「現実とは違う世界や要素を持ち込むことで、現実をより鮮やかに描き出す」点にあるのではないでしょうか。

 現実世界だと、例えばクローン技術が生命やその尊厳について新たな議論を呼び、宇宙開発が月面や宇宙基地という「領土」の扱いについて国際法上の新たな解釈が必要にさせ、新たな協定が結ばれたりします。
 SF はこういった「種」を仕込んで、読者の意識や価値観に対して、新たな問いを投げかけることができます。

 本作ではマシンの知性や判断方法が描かれることで、逆に「人類」や「人間」の知性や思考方法に光があてられ、それが落とす影もくっきりと映し出されます。
 マシンという SF 的な道具立てで描かれたのは、結局は現代を生きる私たち自身が抱えている問題でした。


 3つ目は著者の力量。

 上記2点の構造に命を吹き込むのはやっぱり小説家としての筆力。
 1つ目の構成の妙を生み出す物語内物語を利用したプロットの置き方しかり。
 2つ目の SF の力を引き出すために要求される、マシンの知性の描き方しかり。

 当然、私たちは人類としての知性を通じてしか小説を読めないわけで、その人類の知性という窓を通じつつも、マシンの知性を人類とは異なるカタチで描き、さらに直接的に表現しがたい部分や思考の背景は複数の物語を通じて別のカタチで読者に理解させています。
 これ、振り返って言葉で説明するのは簡単ですが、読書体験を通じて感じてみると本当にすごいですよ。
 しかもこれだけ複雑な構成でありながら、まったく難解ではありません。
 素直に読み進められ、ぐいぐい引き込まれていきます。


 読み終えての感想は「すごい物語に出会ってしまった」でした。
 一応、エントリとしてまとめてはみたけれど、この本のすごさを 1% も伝えられてないと思います。
 物語に救われたことのある人には(つまり全人類だ)、是非是非読んでみて欲しいです。
posted by しまけん at 05:32 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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